“日本語ラップから見た静岡のシーン” vol.1
’90年代アメリカで黄金期と言われたヒップホップ。日本でも第一次ブームが起き、多くのラッパーが登場しメディアに露出した。しかし流行は、あっという間に過ぎカルチャーがかろうじて定着しているような状態になった。よくファッションは20年周期でやってくると言われるように’90年代リバイバルの波と共にヒップホップの波がいま再びやってきた。本場アメリカでは多くの新鋭アーティストが誕生しトップチャートをにぎわせ、日本では『フリースタイルダンジョン』や『高校生ラップ選手権』など「ラップバトル」というエンターテイメントコンテンツでメディアとうまく融合しだした。10代を中心に受け入れられた「日本語ラップ」というワードは今や流行から当たり前となり、ここ静岡でもくすぶっていたヒップホップシーンに活気を与えている存在になった。では静岡で「日本語ラップ」はどんな影響を与えているのか?ブームを危ぶむ声もある中、当事者であるラッパー達にインタビューしてみた。
今回インタビューに答えてくれたのは静岡ヒップホップシーンの中心人物「SUGAR CRU(シュガークルー)」というユニットのラッパー「GOMA(ゴマ)」と「MUSH(マッシュ)」 そして静岡サイファーの主催者であり若手ラッパーの代表と言われる「MAD ZOMBIE(マッドゾンビ)」から「泉ピン太郎」の三人。
まずは今のこの現象についてはどんな感じにとらえてる?
GOMA(以下G):そうっすねぇ、すごくいい流れだととらえてます。普通に。
MUSH(以下M):同じく、ですね。
泉ピン太郎(以下 ピ):僕らの世代はもう普通にこの流れできてるので。
G : ピン太郎なんかはもうぜんぜん世代が違いますからね。今まだ21歳ですしね、俺らが’90年代のブームで影響されてラップ始めた頃に生まれてるっていう感じですからね(笑
’90年代の流れと今の流れを比べてみてどう?
G : 確かに’90年代とは違う流れだと思います。’90年代当時はたくさんのヒップホップアーティストが現れて、ブームというか日本にそれまでなかったヒップホップカルチャーのいしずえ的 な部分はが出来上がった感じがしますね。
M : 「さんぴんキャンプ」とか「B-BOY PARK」とか当時はアンダーグラウンドが圧倒的にカッコイイからそっちが先行しちゃっててみたいな感じじゃない?
G : そう!なんかそこで分かれちゃった感じだったよね。YOU THE ROCKがラジオやってたけど決して一般向けじゃなかった感じでしたし、よくも悪くもそれが’90年代だったんじゃないかと。
『さんピンCAMP』は1996年日比谷公会堂で開催された伝説のイベント。『高校生RAP選手権』や『フリースタイルダンジョン』が現在進行形で10代の若者から支持され今の日本のヒップホップカルチャーシーンでの牽引役となっている。
ラジオといえば新しく始まったよね?ZEEBRA氏による日本初の24時間ヒップホップ専門番組「WREP」そして偶然にも同じタイミングで静岡でもK-MIXで毎週土曜深夜オンエアされるヒップホップ番組「THE FRESH」も始まったよね?お二人もメインMCで参加してるよね?
M,G : そうなんです、ありがとうございます。
G : これって丁度アメリカの’90年代にラジオ局「HOT97」が開設された時みたいな感じですよね、10年20年遅れてるって思うんですよ日本はカルチャーの根付きが。まあ、だからこそうまく融合する道が見えるというか…ただ、静岡は東京にも遅れていますからね。
M : アーティスト自体が遅れてるってことじゃなくて、サポートする体制というか圧倒的に人口が違うので絶対数が少ないぶん環境が悪いだろうね。
G : でもだからって俺らも何もしてなかった訳じゃなくイベントも続けてきたし、それこそ「日本語ラップ」でいえばいくつかの「バトルイベント」を今のブーム以前からやってますしね。 最近はレコーディングスタジオもつくりましたし。
ピ : 実際にGOMAさんとかMUSHさん達のサポートで引っ張ってもらってるっていうのはあります。自分らも「サイファー」でやってきてそっから実際そういうバトルイベントに参加してますし そういう場がなければブームがあってもシーンはここまで大きくならなかったって思います。
『WREP』はアプリなどで聴ける日本初の24時間HIPHOP専門ラジオ。静岡初のHIPHOP専門ラジオ番組『THE FRESH』はK-mixで毎週土曜の深夜2:00から放送。SUGAR CRUの2人も所属する”MO HARD MUSIC”が仕掛けるバトルイベント『FIHT CLUB』は記念する100回大会では賞金100万円ということで全国でも話題となった
お!今ちょうど「サイファー」ってワードが出たけど、これって近年の「日本語ラップ」には欠かせないワードだよね?簡単に解説するとどういうものかな?
ピ : まあ簡単にいえばその場に何人か集まってラップをしあう場というか。
M : フリースタイルラップの修行みたいなもんじゃね?
ピ : そうっすね(笑)自然発生的に「今日ヒマだからどこそこ集まる?」って集まってその場でフリースタイルやり始めてくみたいな
G : 静岡も色んな「サイファー」あるんでしょ?
ピ : 結構ありますね、今はあんまりやってないですけど「静岡サイファー」があって定期的にやってるのが「富士宮」「藤枝」「掛川」「浜松」とか、もっとあると思います。
M : あれは?「スンプサイファー」とか「ドリプラサイファー」とかもあるじゃん。
ピ : あーそうっすね、なんだかんだで10こぐらいあるんじゃないっすかね?
G : 今のヒップホップの入口なんすよね。「サイファー」でラップをし始めてやり合いながらうまくなってって「バトルイベント」に出るっていう感じすね。俺らの時代 にもあったんですけど「ナンバースリー」ってクラブで毎週火曜日に集まってフリースタイルやりあってたのあったじゃないですか?

あった、あった(笑
M : 俺はそっから入ったっす「ナンバースリー」にラッパーが何十人も集まってきてバトルをオープンマイクでやり出すっていうのがあって。
G : それが俺らの時代で、でも今の時代はそれがクラブじゃなくて公園とかそういう外の場になってるのが「サイファー」になってると思いますよ。今はまた若いですからね〜、10代が中心でしょ?
ピ : そうですね、16、7才とか、俺とかもう若手じゃないっすからね(笑
21才で若手じゃないって(笑)するとそういう「バトルイベント」は静岡ではどれぐらいの数あるの?
M : 「ソウルブラッズカップ」とか「暴動」「ファイトクラブ」「ザムライ」とか
G : 主要なのは4、5大会ですかね。
ということは「サイファー」で「フリースタイル」やって「バトルイベント」に出る。それが最終目標?それともその先があるって事?
ピ : 僕は大会に出て名前を売ってライブに呼ばれたりして、お金がもらえるようになりたいというかバトルに出たいってよりもその先のことを考えてて、バトルも 好きなんですけどそれだけがやりたいんじゃなくて、曲つくってライブしてってなりたいですし。ほんと人によると思うんすよ、バトル好きっていうのとヒップホップの曲とかが好きっていうのでわかれるところもあって、バトルが好きな人はもうバトルが楽しければいいやって感じだと思うんで。10代の子達はそういうのも多いと思います。
じゃぁそういう人は洋楽のヒップホップアーティストの曲とかも聞いたりなんかしないのかな?ファッションとかの影響もないとか?
ピ : 最近テレビ出てる人とかは好きとか多いですよ。アンダーグラウンドのアーティストとかは知らないけど「R指定」とか「ACE」とかは好きだ、みたいな。
M : だけど海外のアーティストが普通に好きっていうのもいるでしょ?USのアーティストが好きでそういう格好する奴もいるじゃん。昔はアレでしたよね?「ウェッサイ(west-side 西海岸系)」が流行って皆んなギャングスタの格好して、その後「Wu-tang」とか出てきたらアースカラーの服にティンバーのブーツみたいな(笑
G :あーあったね。今はオーバーサイズの服を着るやつがいたり、流行でタイトな服装するのがいたりとか、情報がたくさんあるので選択肢も多いんでしょうね。ピン太郎もやっぱ好きなアーティストに影響受けてるからそういうオーバーサイズの格好でしょ?
ピ : そうっすね「ダイナリデルタフォース」の影響ですね。日本のアーティストなんですけどその人たちの影響が強いと思います。
そうなんだ。やっぱりそういう時代なんだね。ピン太郎くんがラップに興味持ったのもやっぱりそういう音楽を聴いて?
ピ : 僕は中学の頃から「リップスライム」とか聴いて興味持ったりしてたんで、そこから深いとこのヒップホップ、さっきの「ダイナリ」とか「ジャスワナ」や「ベス」 とか聞き出してって感じですね。
M: 今は日本語のヒップホップオンリーのDJとかいますからね。
G : ’90年代って誰の曲って聴けばわかるぐらい、みんなそれぞれ違ってたじゃないですか?まねしてたらディスられるってのもあったし、でも今のUSのメジャーな曲ってプロデューサーがハヤりになっててラップも曲もにたりよったりになってたりしてて、そういうのが好きな人はいいんでしょうけど・・でも日本人のアーティストの方がまだ個性があってラップもインパクトがある、だから今の若い世代の方が聞く耳を持っているというか、情報が多いぶんすごい聞き分けてるって思うんですよね。まあヒップホップというカルチャーが好きなのか、ハヤりもんとして好きなのかっていう部分は今も昔も同じだとは思いますけどね(笑
じゃあ今の世代の人たちっていうのはやっぱりラップがうまいの?とすればどういうところがなのかな?できればラップの解説もしながらお願いしていい?
M:メチャクチャうまいっすよ。高校生とかそれぞれみんなタイプがいてそれぞれ違うっすけど、ほんとうまいっす。
G:いわゆるラップって「ライム」「フロウ」「パンチライン」ってあって「ライム」ってのはいわゆる「韻を踏む」ことなんですけど、母音や子音の言葉遊びですね。語尾の母音合わせたりとか、子音だと簡単に言えばダジャレみたいに似た響きの言葉を繰り返したり。「フロウ」はその言葉をビートへの乗せる、というか歌いまわし方って感じです。「パンチライン」は決め台詞というか、印象に残る言い回しすね。バトルでいえば相手をやり込める核心を突く一発みたいな。でもこの「日本語ラップ」ってスゴく難しいというか、日本語は英語より複雑な言語だしラップをするのには数段難しいんじゃ無いかと思ってます。だから「ライム」も「フロウ」も「パンチライン」も全部いつも完璧なラッパーて見たことないですし。そんな中で俺が思うのは「ライム」がバシッとハマった時こそラップが一番盛り上がる時だと思うんですよ。それこそがラップの醍醐味というか。で、それが今の静岡で来てるのがこのピン太郎なんですよ(笑
ピ:いやいや、まだまだです(笑
M:いや、ハマった時はスゴイよね。ただ「パンチライン」を意識しちゃうと、ね?(笑
ピ:そうなんすよ。相手に飲まれちゃうというか・・言われたことに熱くなりすぎちゃうと・・つい(笑
G:でもスゴイ時は本当に神がかってるぐらい、ノッテる時は静岡で一番エゲツない「ライム」を、言葉遊びをかましてくるんですよ!

おお〜。その辺りちょっと掘り下げて聞きたいんだけど。そういう時ってどんな感じなの?例えば「これだけは言うぞ」みたいに事前に考えてたりするとか?
ピ:んー、人それぞれだと思うんですけど。僕はフラットで何も考えずにいますね。当日にならないと対戦相手も分からなかったりしますし、仮に考えていても緊張するし。
G:出てこないよな!(笑)「こいつにこれだけは言ってやろう」と思ってても全部飛んじゃうしな!(爆笑
M;即興だよね?結局。その場の空気というかスポーツみたいに体に染み付いてるというか。
G:感覚ですよね、もう完全に。だからそういう意味で言えば今の世代は「サイファー」があるので体に染み付きやすい環境なんだとは思います。
なるほど。じゃぁさっきの話に戻るけど、バトルの先を考えてるって言ってたじゃない?それは曲を作ってアルバムをリリースするとかって事?
G:実はもうスタジオで録音を進めているんですよ、PVもうちで撮るのも決まっているんです。実際にアルバムつくるのってやっぱりお金がかかるし、みんな躊躇するんですよ。でも彼ら(泉ピン太郎と相方ジョーホークによるユニット「MAD ZOMBIE」)は即決で「やります!」ってなって意気込みが違うっていうか、若いのにそこに踏み切ってくれて気持ちをスゴく感じますね。
ピ:いや、まだまだ足りないっす。でもやっぱり静岡を拠点にして県外とかでも活躍できるように、地方に呼ばれるぐらいになりたいです。僕らは東京でやるっていうのも考えてなくて、あえて東京がイヤっていうんじゃないんですけど、ツイッターとかで見て個人的に共感したことがあったんです。東京って昔の方がイケてて、今はちょっと勢いがなくて下がってきちゃってるんじゃないか?って。逆に地方の方はだんだん成長してアガってきてる、みたいな。だからこそ静岡をもっとアゲたいって思うようになってます。
おお〜アツいね。でも、さっきの話の中で地方はやっぱり東京よりも遅れてるっていう部分あるって言ってたじゃない?
M:サポート体制とかそういう部分では確かにそうなんです。ただ地方がアツくなってきてるというか、それぞれ地方にボス的な人がいたりして、そういう地方はホントにアガってきてますよ。ここ静岡もそんな感じなんです。
G:そうなんですよ。そういう部分でいうと、さっき話しにあった今の10代の子たちなんかは俺ら「SUGAR CRU(シュガークルー)」ってだれ?みたいな(笑
M:ファイトクラブの司会のオジサンですよね?って感じで(笑)でもそれが逆にいいというか。変なイメージが先行しないぶん、壁がなくて気軽に話しかけてきてくれますし。
G:だからと言って、俺らが静岡のシーンでボスっていうつもりじゃないんですよ(笑)でも役割というかここまでやってきた自負もありますし、シーンから受け取ったものを次の世代に返してやらないといけないと思うんです。今のこの流れを快く思わないラッパーとかもいるとは思うんですよ。「日本語ラップ」「バトルラップ」ってのが先行しちゃって流行りみたいのがなんなんだ?とか。それも分かるんですけど、でも否定ばっかりじゃなくて少なくとも俺らは常にアクションをしていって若い世代の人たちにリスペクトしてもらえるようにしたいですし。もちろんアーティストとしても第一線で活動して行きたい、それでいて若い子たちをフックアップできるようにもして行きたい、いや、やらなきゃいけないと思ってるんです。シーンを盛り上げていくのには、古い考え方というか自分らがこうやってきたからお前らもこうやるんだよ!って決めつけるんじゃなくて、もっと世代とか関係なく一致団結してシーンを一緒に盛り上げて行こう!ってのが重要なんだと思ってるんで。これからのシーンも見ていって下さい!