PATTI CAKE$ 『パティケイクス』(2017)
『パティケイクス』 原題:PATTI CAKE$
監督・脚本・音楽:ジェレミー・ジャスパー
出演:ダニエル・マクドナルド、ブリジット・エヴァレット、シッタルダ・ダナンジェイ、ママドゥ・アティエ、サー・ンガウジャー、キャシー・モリアーティ、MCライト
ニュージャージーに住むパティ(ダニエル・マクドナルド)は、呑んだくれの元ロック歌手だった母親バーブ(ブリジット・エヴァレット)と、車椅子の祖母ナナ(キャシー・モリアーティ)との3人暮らし。彼女は憧れのラッパーO-Z(サー・ンガウジャー)のように名声を手にして地元を飛び出ることを夢見ていた。貧乏で金無し、安定した職もなく太った容姿から『ダンボ』と呼ばれ周囲からバカにされる始末、しかしそんな中でもパティは友人ジェリ(シッタルダ・ダナンジェイ)とラップする事を唯一の楽しみにしていた。ラップを武器に腐った生活から抜け出そうとジュリや、ライブ会場で同じように嫌われているバスタード(ママドゥ・アティエ)を仲間に入れて成功への道を模索する、プロモCDを作り配布し、バイト先で知り合ったラジオMCのフレンチ・チップス(MCライト)にも渡せて順調かと思いきや・・・
以下ネタバレ含みます。ご注意を。感想はあくまで個人的な意見です。
2017年のサンダンス映画祭で正式上映され、アメリカで放映されるとFOXが日本円で約10億という破格の販売契約を結ぶなど話題の作品となりました。簡単に言えばエミネムの映画『8mile』を彷彿とさせる痛快なヒップホップサクセスムービーです。どうしてもうまくいかない生活から、どうにかして這い上がろうと音楽だけが拠り所のパティ、彼女を演じるダニエル・マクドナルドという女優さんはかなりラップの修行をしたそうです(笑)本当にラップのスキルも素晴らしく、劇中の歌もカッコ良かったです。『8mile』の時のように完成されたヒップホップとまた違い、かなり荒削りであるけどそれがまた本当にサクセスストーリーをリアルに感じさせてくれてたまらなく良かったです。監督、脚本に音楽まで手がけたジェレミー・ジャスパーがすごいです!
パティはバーテンダーのアルバイト、母親のバーブは美容師だが仕事もうまくいかず毎日飲んだくれていました。祖母のナナは車椅子生活で介護が必要なのに病院の支払いもできない状況で、パティが働いて稼がなくていけませんがなかなかいい仕事に就けません。街へ出れば周囲からは「ダンボ」と呼ばれ馬鹿にされる毎日、そんな彼女が救われるのはドラッグストアで働くジュリとラップをすること。ある日ジュリとともに地元で幅を利かせるラッパー達のパーティへ行き、パティ達は自分達の方が上手いと思ってながらも眺めていました。そんな中パーティ終わりの会場で1人の黒人少年バスタードが、ノイジーなパンク音楽を披露するも観客はいないし冷やかしの少年達にも怒鳴られる始末、しかしパティはなぜか彼が気になります。その帰り道、先ほどのラッパー達が路上で即席のラップバトルをしていました。ジュリはパティを強引にけしかけバトルへ参加させるとリーダー格の少年をラップで打ちのめしてしまいます。しかし逆ギレした少年がパティへ頭突き!その上容姿を馬鹿にされたりする酷いディスに心がやられたパティでしたが、ラップでは勝てると思いジュリと共に一層奮起するのでした。一方母親のバーブは昔ロック歌手だからとパティの働くバーで歌を披露するのですが、いつも酩酊してしまうのでパティは大迷惑。しかしバーブも昔はレコードを出し、メジャーデビューまであと少しというところまで行っていたのです、それを知ったパティは自分もラップをやって成功したいと伝えますが馬鹿にされる上にとにかく働いて稼ぎを入れろと叱られてしまいます。その後パティとジュリはレコーディングしようと貸しスタジオを訪れますが、カッコつけて吸ったことも無いマリファナを吸い、おかしくなって失敗(笑)どうにもうまくいきません。しかし車椅子生活の祖母ナナとは介護しながらもとてもいい関係です。そんなナナと共に行った死んだ祖父の墓参りの帰り道、あの黒人少年バスタードを見つけます。彼の持つ音楽機器を見てパティは彼がトラックメイカーだと確信しジュリと共に押しかけ仲間に引き入れます。そのままノリで楽曲し、祖母のナナまで引き入れて互いの名前を入れた「PBNJ」というバンドを結成!同じ名前の「PBNJ」という曲を入れたプロモ用CDを作って配布することに。これから這い上がるために色々と活動しようとするメンバー、パティはバイトも順調にいき正式採用になります。ある日の給仕のバイトで行ったパーティで地元ラジオ曲の売れっ子DJフレンチ・チップスにプロモCDを渡せることに成功!続いては豪邸へのケイタリングサービスでバーテンをやることに、しかもその豪邸の持ち主はあの憧れのラッパーO-Z!プロモCDを渡すことに成功し認められると思いきや、聴きもせずにこき下ろされバイトもクビになる始末・・さらにジュリがドラッグストアで知り合ったストリップ劇場主にお願いし、ストリップでのプロモライブをブッキングしてくれるが、あまりの酷い環境からパティは嫌になって途中で抜け出してしまいます。そのことが原因でジュリとは仲違いしたままに。バーブはバーブでかつての歌手人生を忘れられず、旧友から不倫相手になった(笑)警察官とバンドを組んでライブを披露しますが、悪酔い過ぎて骨折しステージは台無しに(お母ちゃん・・)かつてのレコードも捨てまた酒浸りになってしまいます。ナナも体調を崩し入院していたのですが、そのまま容体を悪くしとうとう亡くなってしまいました・・パティは全てが嫌になりバーブと同じように全てを捨てようとします、その時バーブが捨てたレコードを見つけます。そこへ一本の電話が!それはあのラジオDJフレンチ・チップスでした。彼女はプロモを聴いてくれていてアマチュアの大会に推薦してくれていたのです!ジュリに謝罪し、行方の知れなくなっていたバスタードと再会しもう一度チャレンジしようと決意します。自宅にこもっていたバーブに頼み髪を切ってもらい、大会を見に来てくれとチケットを渡します。大会当日ステージに立つパティ達に対し地元の観客達は「ダンボ!」と叫びしヤジだらけに。しかしパティ達は負けずにラップを披露!バーブのあの曲を使いロックとヒップホップの融合したビートのアガる曲を披露します!やがて観客も盛り上がっていきステージは最高潮に!そこへバーブも駆けつけます!最後のコーラスの時パティはマイクをバーブに渡してクライマックス!!会場の盛り上がりは最高でしたが、結果は優勝できませんでした・・しかしそこには全てをやり切って満足するバンドのメンバー達と、あらためて絆を確かめ合えた母娘がいました。メンバーが地元に戻り余韻に浸っていると、カーラジオからDJフレンチ・チップスの声が・・「さて次はリクエストが殺到してるこの曲を!」と流れてきたのはあの「PBNJ」!!
パティを始めとしたバンドメンバーのキャラクターや、家族のキャラクターが設定がすごく良いのと作中の音楽の出来が良いこと。先に書いたように『8mile』のように有名な俳優さんで音楽も出来上がっているものとは違うのでもっとストリート感とか現実っぽさがリアルじゃないかと思います。s主人公のパティが白人の女の子だったり、インド系のジュリ、黒人だけどパンクスのバスタードとヒップホップにありがちな黒人ばかりって感じじゃないのもリアルさが出てる気がします。パティ役のダニエル・マクドナルドはオーストラリア出身で訛りを消すのにも苦労しただけでなく、ラップなどやったこともないのに何ヶ月も猛特訓してスキルを身につけたのだとか。それを踏まえてあらためて「PBNJ」の音楽を聴いてみても、この映画のためにわざわざ作られたとは思えないほどすごい良い出来の曲、それに加えて彼女達の演技力とうまくできたストーリーに、リアルさが滲み出た作風。ここ近年では一番良かったサクセスストーリームービーではないでしょうか。
Illustration & Text by PONYBOY